アカデミック・ハラスメントとその周辺

アカハラに遭わないために/遭ってしまったら学生はどうするべきか、アカハラと言われないために教員はどうするべきか、アカハラに対して大学はどうするべきかなど。  

アカデミックハラスメントのタイプ分け

 

0. アカデミック・ハラスメントのタイプ分けをする意味

(1) 客観性の担保

 僕が知る限り、アカデミック・ハラスメントを大学/研究組織に訴える際は、被害者側に対しての聴取のみで受理してくれる組織はほとんど無く、必ず訴える側が書類の形で被害内容をまとめる必要があります。しかし、なんとか自分でまとめてられても、自分が問題視している内容を大学組織が軽視し、結果的に被害が矮小化される場合も良く見聞きします。そのため、どの問題行動がハラスメント規定のどの内容と見なせるのか参照し具体的に示しておくことで、大学/研究組織に対する牽制も出来、さらには有る程度客観的な意識を共有できるのではないかと思います。

 さらに、ハラスメント下にいるとヤバい言動について鈍くなり、これらを看過してしまうことが良くあります。こういったタイプ分けから、この言動が悪かったんだという事を再認識しておくことで、自分でハラスメントを矮小化することを避ける事が出来ます。

 また、これをしておくことで、仮に訴えのなかで大学/研究組織にハラスメントだと認められない内容があった場合、その組織のハラスメント規定を参照して何項にこう違反しているのではないか、という意義申立を速やかに行う事も可能です。

(2) 負担の軽減

 被害内容を整理して行く過程では、当然かなりの負担が生じます。僕の場合、自分の見聞き/受けた言動が多く、加えて内容もかなり多岐にわたっていたため、申立内容をまとめるに当たってかなり混乱していました。さらに、自分の見聞き/受けた言動がハラスメントなのかどうか、もしかしたらいちゃもんに思われるのでないかなどでもとても悩み、これらの点で大変苦労しました。

 そのため、公的な規定や以下のようなガイドラインを利用することで、比較的軽い負担で自分の体験を整理し、さらには自分で認識していなかったハラスメントまでをまとめることができるのではないかと考えます。

 僕が大学に提出した申立書では、○年○月○日恫喝, ○年○月○日恐喝等、個々の申立内容に通し番号を振り、大学のハラスメント条項をコピペしこの条項のどこに何番が当たるかを記載しました。

(例・指導の際に、怒鳴りつけたり、物を叩くなどの威圧的な言動を繰り返す。 番号2,3,44他)

(3) 事例の集積とコンセンサスの醸成

 このHPの目標として、国内のアカデミック・ハラスメントの事例の集積とそれに対するコンセンサスの醸成を目指しています。また、それに付随して、アカデミック・ハラスメントを大学/研究機関に申立するに当たってのひな形と、個々の事例から帰納的に導いたアカデミック・ハラスメントについてのガイドラインを適宜更新しつつ提示したいと考えています。

 1. セクシャル・ハラスメント以下では、大学にハラスメント申し立てた際記載したタイプ分けを骨子にして、いくつかの機関のハラスメント規定と書籍を参考に整理したものを提示しました(参考文献等は記事末尾)。これを元に、僕以外の複数の事例についてもこのガイドラインの何に当たるかを整理することで、分野による傾向やタイプをまとめられるのではないかと考えます。また、今後僕の事例を元に個々のガイドラインに対応する内容を公開していくつもりです。これによってアカハラを知らない方にアカハラについてより具体的に知ってもらい、またアカハラに遭っている方には僕の例を通して自分のハラスメントがどのような位置づけにあるかを把握してもらいたいという目論見もあります。

 何人かの方から、アカハラに対する申立書等を公開したい旨の話を伺っています。それらをどの様に扱うかは慎重に考えますが、それらもこのタイプ分けに当てはめることで、より多くの事例を俯瞰して考えられるようになればと思います。また、今後仮に誰かがこのHPを参考に大学/所属機関に申立書を書く際には、ここで集められた事例を利用してもらえるようになるかも知れません。

 また、アカデミック・ハラスメントについては大学間で共通した対応や規定がほとんど無く、アカハラと見なされるグレーゾーンもかなり広いです。このためか、被害が矮小化されるケースの他、教員が虚偽のアカハラの訴えで被害を被った例も散見します。(宮崎大学, 山形大学, 福岡県立大学の例https://twitter.com/giugno_june/status/903111721669337088

このほか岡山大学薬学部, 金沢大学の例など)

ここで複数の事例を元にガイドラインをまとめる事で、こういったグレーゾーンの幅を狭め、さらに色んな人の間でそのコンセンサスを共有することが出来るのではないかと望んでいます。

 

 ハラスメントに対してのコンセンサスを醸成するに当たっては、個人的にはより多くの情報と、何より意見が欲しい。急いで作ったのでカバー出来てない所も多いはず。こういうケースもある、こういうのは行き過ぎだけどこの場合は問題ないという指摘や批判はとても欲しい。こういう意見が、僕のような学生の側からだけで無く、教員や職員の方からも出て議論が活発化して欲しい。教員から学生へのハラスメント以外にも教員から教員へのものなどもまとめることで、現行の制度上の不備の指摘や、ハラスメントに対する意識を高める事になると思う。

 

 以下、ガイドライン

1.セクシャル・ハラスメント

(1) 性的な言動、ヌード写真などを掲示するなどして、修学、就労、教育又は研究環境を悪化させるもの

・相手が嫌がっているのに、性的な冗談を繰り返したり、性的経験を話すよう強要する。

・自身の性的な価値観を押し付ける。

・特定の個人の性に関する根拠のない噂を流す。

(2) 性的役割分担意識に基づく差別的な言動をするもの

・性的な魅力を服装や振る舞いにおいて求める。

・「女性は・・・」、「男のくせに・・・」などジェンダーに関するステレオタイプ的な発言をする。

・飲み会の席などでお酌や、カラオケのデュエットをすることを強要する。

・研究や仕事の指導において、つねに女性より男性を(もしくは男性より女性を)優先する。 

 

2.研究指導上のハラスメント

(1) 修学・教育上の権利の侵害

・教員が特定の学生に対してだけ研究指導を放棄する、もしくは、過度に厳しく指導する。

・学生の研究指導をする際、理不尽な指示を繰り返す。

・ゼミやセミナーなどの人前で罵倒したり、「君はいくら言ってもつかえないね」、「無能だ」など、人格否定や人権を侵害するような発言を繰り返す。

・正当な理由なしに、教育的指導を拒否し、修学に支障をきたすほど指導を行わない。

・指導の際に、怒鳴りつけたり、物を叩くなどの威圧的な言動を繰り返す。

・常識的に不可能な課題達成を強要する。

・ゼミや中間発表会における発表を拒否し研究活動を妨害する。

 

(2) 進路(進学・卒業・就職)の妨害

・学生の卒業,就職の妨害をする。正当な理由なく単位を剥奪したり与えないなどをほのめかす。

・「従わなければ卒業させない」などと脅して、不当な要求をする。

・本人の意思を無視して退職・退学を強要する。

・進学や就職に関して、不当な扱いをする。

・個人的な感情から、奨学金等の申請に必要な推薦書を書くことを拒否する。

・他の大学院を希望しても、受験を阻止や妨げる言動をする。

・指導教員の変更を希望した際に、それが正当な理由によるものであり、制度上も妨げる理由がないにもかかわらず、許可しなかったり妨害したりする。

(3) 研究上の権利の侵害

・正当な理由なく、不利なかたちで論文著者名の変更や、研究チームから除外を行う。

・正当な理由なく、実験機器や試薬等の利用を制限する。

・深夜、休日まで長時間にわたって極端に拘束し、研究を押し付ける。

・発案者の了解なく、未発表の研究を横取りしたり、他の者に行わせるなどする。

・研究発表活動(論文、学会発表等)を不当に制限する、もしくは、健康上・経済上の負担を無視した要求をする。

・学位審査の要件を満たしているにもかかわらず、不当に審査に応じない。

 

3.パワー・ハラスメント

(1) 言葉の暴力や嫌がらせ

・「バカ」「やめろ」「おまえなんかいてもいみがない」「役立たず」等の人格を否定するような発言を繰り返す。

・些細なミスを、人前で大げさに非難する。 

・不必要に怒鳴りつけたり、暴力的な振る舞いをする。 

・人事上の権限をほのめかし、不利益を与えるなどの言動をする。

・特定の相手にだけ冷たく当たったり、人前で侮辱する。 

(2) 不当な業務命令や評価

・業務を遂行する上で必要な情報をわざと与えない、もしくは業務に支障が出るほどに指示を遅らせる。

・指示を仰いでも無視したり、必要な説明を行わないなどの嫌がらせを行う。

・達成不可能な期限を設定する。

・極端に長時間働くこと及び休日出勤を強要する。

・気に入らない相手に恣意的に不当な評価を行う。

・正当な理由なく、仕事をさせなかったり、仕事を妨害する。

 

4. その他のハラスメント

・職務上知り得た個人情報や、事実無根の噂を流す。 

・自分の私生活や私的な活動への協力を強要する。 

・掃除や雑務を特定の個人だけに集中してやらせる。 

・不正行為に加担させる。

・研究室内で、特定の学生を排除したり、差別的な発言で傷つける。

・病気に対する理解がなく、無責任な発言や差別的な扱いをする。

・不当な仲間外れ、いじめなどをする。

・飲み会の席で、飲酒を強要する。 

 

 

5. 参考文献・URL

弁護士法人 飛翔法律事務所編(2014) 『キャンパスハラスメント対策ハンドブック』経済産業調査会.

第二東京弁護士会両性の平等に関する委員会編(2016) 『ハラスメントの事件対応の手引き - 内容証明・訴状・告訴状ほか文例』日本加除出版.

杉原保史(2017) 『心理カウンセラーと考えるハラスメントの予防と相談 - 大学における相互尊重のコミュニティづくり』北大路書房

北仲千里・横山美栄子(2017)『アカデミック・ハラスメントの解決 - 大学の常識を問い直す』 寿朗社.

"規則・資料等". 東京大学ハラスメント相談所. http://har.u-tokyo.ac.jp/ , (参照 2018-09-25)

"ハラスメント防止ガイドライン". 一橋大学https://www.hit-u.ac.jp/harassment/pdf/guideline.pdf (参照 2018-09-25)

 

・ハラスメントのガイドラインについて、参考にしたものの発行や公開に関わっている多くの大学で、その先進的な取り組みにも関わらず、相当悪質な事例に対して軽い処分を公開しているのは、とても残念に思います。